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 バーレスクの不思議さに魅了されたビバーチェはソロの活動を行うようになる。ソロの芸名は「チェリー・タイフーン」。大好きな隅田川の桜からその名を付けた。グループのメンバーからひとりのダンサーへ。偶然の出来事の連なりは、彼女にバーレスクとは何かを教えてくれた。

 


 

 グループでは、統一された方向性を作るために共通項が必要です。紫ベビードールでの私は、ダンサーというわけでもなかったし、体型的にもほかのメンバーと揃う部分がないので、グループとしての難しさを感じることもありました。簡単に言えば、浮いてしまいやすい。試しにひとりでやってみたらどうなのかなと思い始めました。何より、バーレスクの持つ正体不明の不思議な魅力に興味があったので、この魅力の正体をぜひ研究してみたいなと思っていました。

 初めて一人でアメリカに遠征し、ニューヨークの「ミス・ガラパゴンザ」という新人バーレスク大会で、本番の前日に「出してください!」と頼みこんで出場したことがあります。その大会は一人が2曲を踊ることになっていたのですが、私はそれを知らなかった。てっきり1曲だと思っていたら、他の出演者が次の衣装に着替えだして、私がぽかんとしていると、あるダンサーから「なにやってんのよ、2セット踊ってから審査よ!」と言われたのです。

 1曲目は紫ベビードールの衣装とカツラで踊っていたから、次の衣装はもうなかった。でもそのとき、偶然にもきれいな布を1枚持っていて、その布で出ることを決めました。他のダンサーは髪型を変え始めている。私はとりあえずカツラを外すことにして、「私と布しかない状態」で踊ることを決断しました。

photo | NEGIBOU

 踊っている最中に「私と布しかない状態でも踊りはできる」ということに気づきました。紫ベビードールのビバーチェとしての身分を保証してくれるカツラがない。紫ベビードールのことを好きな方が観客にいたとしても、多分これでは気づかない。音楽は持っていたCDに偶然入っていた曲で、踊りなれた曲ではない。その上英語もよくわからない。ないない尽くしの、ひとりの踊り。

 ひとりになるというのは、安心がないけれど、安心がない分、今までやりもしなかった面をせっぱつまって出す機会に恵まれました。青天の霹靂でしたね。結果的にこれが功を奏し、この大会で優勝してしまいました。

ないない尽くしは偶然尽くしで、その時に音楽を2曲を持っていたのも偶然でした。普段持っていないスペアのCDを持っていたから2曲目があった。どうして布を持っていたかも自分でも分からない。ただ一つ確かなのは、観てくれる人がいたから、一人のダンサーになってみようという気持ちが生まれた。つまり、その場のお客様が私を助けてくれた結果、そして私を選んでくれた結果、今の私がある。一人でいるということは誰かに助けられているということなのです。一人でいることができて初めて、皆と立つことができるのではないか…たった一人の優勝の夜、自分の身の回りの有難みを始めて感じつつ、ふとそう思いました。