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 紫ベビードールはこのイベントへの出演を機に、アメリカでのバーレスク大会へ定期的に出場していく。とりわけ、2005年にサンフランシスコで開催された「ティース・オ・ラマ」ではビバーチェにとっての大きな事件が起きた。

 


 

 「ティース・オ・ラマ」では印象的な出来事が二つありました。一つは、この大会で唯一、会場が総立ちになって喝采を浴びたのが紫ベビードールでした。初めは、アメリカ人が日本の無名なパフォーマーたちを観てどのような反応を示すか、正直不安な部分がありました。でも、強いエネルギーと表現を持っていれば、言葉も何も関係なく、一気に仲間になれる瞬間があることを体験できました。

 二つ目の出来事。会場で私たちのパフォーマンスを見終えたときに泣いている婦人がいました。彼女に突然呼び止められて、「ずっと悲しかったけれど、あなたを観られたら笑えたわ」と言われました。この方はお嬢さんが交通事故で数日前に亡くなられて、遺品にこの大会のチケットが入っていたそうです。

 老婦人なので、バーレスクなんか観たこともなければ、興味もなかったけれど、娘が最後に観たかったものだからといって、大会を観に来たそうです。そして、「あなたたちを観て笑えたから、私はそれで満足よ」と言ってくれました。

 観客全員から拍手喝采を浴びることより、すごく悲しかった人がパフォーマンスの3分だけでも笑えたということの方が、非常に重要でした。会場に来るはずだった女性は亡くなられてしまったけれど、「楽しみたかった人」がつなぐ偶然の出会いがある。でもそのためには独りよがりの表現ではだめで、生命力のある表現が大切なんだということに気づきました。亡くなられた娘さんが無言で教えてくださった、生命力の大切さ。この二つ目の事件は、今でも私にとって大切な事件であり、おそらく生涯忘れることは無いでしょう。


photo | Shinsuke KOTANI