Do the right thing

Do the wild thing

Do your love thing now

 

email interview & translation | Izumi (Gallery ef)
May 2008

 

あなたは独学でグラフィック・デザインを学んだそうですね。そのプロセスにおいて得た最も重要なことは何ですか?

そうです、私は独学者です。未だに勉強中で、それを止めることはないと思います。
私にとって最も重要だったのは、どの教師にも頼らず、正しいのかそうでないのかを決めるのは自分だということを、自覚したことでした。デザインする、創造するということは、何がよくてそうでないのか、黒か白か、大か小か、横か縦か、厚いのか薄いのか、などの決断を常にしなければならないということです。そのような決断のための基本的な道具となるのは目であり、耳であり、脳であり、そしてとても重要なのは「直感」です。その人自身に自分の感覚を信頼する勇気と自信がなければ、世界中のどの教師でも、よいデザイナーになるための手助けはできないのではないかしら。

 

東京のためのエア・シガレットに「アイディアル(理想)」という名前がついたいきさつを教えてください。

エア・シガレットのどのエディションにも、特徴的なブランドネームを付けるようにしています。東京バージョンには、西洋の概念を応用するのではなく、日本人にとって意味のある名前を付けたいと思いました。
オーストリア人の父と日本人の母を持つ(日本で育ち、今は欧州で音楽を勉強しています)20歳の若者に出会ったのはラッキーな偶然でした。私は彼に、東京の特徴を表す一言を見つける手助けを頼みました。彼は即座に言いました。「理想(アイディアル)。東京では、すべてが理想的であれと、誰もが望んでいる」
私は『トーキョー・アイディアル』はぴったりだと思いました。その他の『ニューヨーク・シングル』、『チャイナ・シック』、『バルセロナ・パフ』といったエア・シガレットの名前ともとてもよく合うのです。

 

ふだん東京をどのように意識していますか? 東京に注目するのはどんなときですか?

ロンドン、パリ、ニューヨーク、東京、上海、ニューデリー… 子どもの頃から東京は私にとって、ほんとうに大きくて興味深い、世界の中でも数少ない大都市のうちの一つでした。
東京は、そのすばらしく高いレベルの社会的文化的機構において突出しています。西洋人にとってはとても奇妙に映るものもありますが、ゆえに興味深いのです。

 

トーキョー・アイディアルのための2ヶ月に及ぶデザイン試作を、すべて取りやめましたね。デザインするのをやめて、身一つでまず東京へ来よう、と思わせたものは何ですか。ものすごく勇気がいると思うのですが。

それまでしてきたデザイン試作をすべて取りやめたのは、雑誌を使ったコンセプトを夢でみた時です。その夢から目覚め、100%明確に「これが正しいことだ」と思えました。まずは東京に「触れる」ことでしか、真のデザインは作れないと気づいたのです。
日本の雑誌を使うということは、日本の最新のトレンドに触れるのに最適でした。それらの雑誌こそが、このエア・シガレットを本物にするのです。
私の役割は、エア・シガレットを切り込むための雑誌とページを探すことでした。これはものすごくワクワクするプロセスでした。たった4日間の作業で、私はすでに半年も日本にいるような気持ちになりました。現代のライフスタイル、文化、スポーツ、ビジネス、ファッション、セックス、音楽などについて、たくさんのことを学びとりました。

 

初めて東京に来たときから18年が経って、東京の印象はどうでしたか?(今回は浅草以外ほとんど見ていないけれども…)すごく変わったと感じたことはありましたか?

初めて東京に来たときは、まさに異国でした。今回は東京にとても親しみを感じました。ギャラリーのチームにとても歓迎され、支援されたからだと思います。

 

実は、事前にスペースを見ずにプロジェクトを進めたアーティストはあなたが初めてです。不利に感じたり、もどかしかったりしましたか? そしてウィーンでの制作プロセスと現場での設営において、それをどうやって克服しましたか?

ええ、事前に空間を体験せずに展覧会を準備するのはとても難しかったです。模型を作って空間の雰囲気を予想してみたり。
ついにギャラリーに足を踏み入れたとき、私は心底驚きました。空間は小さく、そして同時に巨大でした。それがまさに、私が事前に把握できなかったことでした。

 

東京に到着した日に、作品の素材となる雑誌を集めに書店へ行きましたが、そこで最も興味深かったことは何ですか?

書店そのものと雑誌はヨーロッパとほぼ同じでしたが、違っていたのは雑誌を梱包してくれた従業員の人たちです。3人の人による完璧なチームワークで、特に梱包技術はすばらしかったです。あなた方日本人が、たくさんのことにおいて高い技能に優れている理由を理解した瞬間です。梱包のような簡易でありふれた行為にさえ、熟練の技があるのですから。

(注:数十冊の雑誌を自転車の荷台に積めるように段ボール箱に入れていただき、重たいので紐と持ち手を2つ付けていただきました)

 


素材となった最新の雑誌の中で、最も興味深かった発見は何ですか?

最も興味深かったのは、日本の生活と環境がいかにヨーロッパのそれと似ているかということでした。これだけの相違点があるにも関わらず、共通点の方が多かったのです。
最もゆかいだったのは、人生の実践雑誌に載っていた手相に関する記事です。よい手相でなかったら、完璧な手相を手のひらに描きさえすればよい、と雑誌は提案していて、どうやるかを解説しているのです。すばらしいグラフィックのアイデアだわ!

 

会場での制作プロセスにおいて、東京エア・シガレットのあるべき姿が明確になった瞬間は?

東京でのプロセスのちょうど中間あたりで(到着して2日後、オープニングの2日前です)、私の今後の作品にとって重要な要素となる何かを今まさに始めているのだ、という感覚を突然得ました。
日本の雑誌を素材として使いながら、現代の日本の視覚文化と直接交わることは、デザイナーとしてとても魅力的でした。でも正直なところ、『トーキョー・アイディアル』がどんなものになるのかがわかったのは、オープニングの前日でした。

 

今回の展示のメインイメージとなったフレスコ画とキスマークのコラージュですが、会場に飾られた作品にはさらに毛のようなものが生えていました。なぜ楽園に毛が生えたのですか??

フレスコ画のイメージを作っていたとき、フレスコの描いている楽園があまりに非現実的だ(あまりに天国っぽい)と気づきました。より現実味を持たせるために、ホコリが必要だと考えました。現実の世界では何もかもにホコリがついているように、本当の楽園にも必要だと(宇宙塵はどこにでもあり、楽園にさえあるのです!)。
下の画像は、大学の教室から取ったホコリを拡大したものです。ふつうのホコリが、こんなに毛だらけだということに驚きました。

ドイツ語では「スープの中の髪の毛」という言い回しがあります。何かがスープの完璧さを邪魔している、という意味です。なので私はフレスコ画の楽園の強い完璧主義を邪魔するために、毛が混じったホコリを使うことにしたのです。
楽園をより現実的にする。それが絵の中に髪の毛を入れた理由です。

 

あなたは東京に着いてからの丸4日間、驚くべき集中力で制作に取り組みました。あなたのその集中力は持って生まれたものですか? それともアーティストとして訓練されたものですか?(それにしても極端だと思うのですが?)

古くからの友人であるステファン・サグマイスターがかつて、アメリカ人アーティストのジェニー・ホルツァーの作品である「PEOPLE ARE BORING UNLESS THEY'RE EXTREMISTS(過激でない人々はつまらない)」という言葉を挙げて、私のことだ、と思ったそうです。私がアーティストまたはデザイナーになる前のことです。なので、過激であることは私の生まれ持った気質なのだと思います。

 

オープニングでのチェリー・タイフーンのパフォーマンスはどうでしたか?

チェリーはほんとうに愛らしい! とても開放的な彼女は、情熱的で興味深い人生を生きることの喜びに向かって突き進んでいて、すばらしいスタイルを持っている。
彼女がエア・シガレット・プロジェクトに参加してくれたことは、私にとって大きな驚きでした。今では、完璧な組み合わせだ、と思えます。
なんてすごいの。私といっしょに東京に来たエア・シガレットたちが、ウルトラ・クール・タイフーン・シガレットに進化したんだから。こんなにすてきなことはないわ! って思いました。
愛しのチェリー、ほんとうにありがとう!

 

展示が完成するまでの間、あなたは死ぬほどタバコを吸い、そして初日を迎えた日からすっぱりタバコをやめましたね。私はそれにもたいそう驚きました。
あなたの作品は、私たちの目を開き、人生に応用できるメッセージやアイデアを十分に含んでいます。なのにあなたはそれをただデザインされ提示されたものとして留まらせず、自らが実行する行動へと導きました。作品のなかで、なぜそこまで「行動(アクション)」に責任を持とうとするのですか?

1992年、私はウィーンにあるアートと写真の私立学校に入学しようかと思っていました。同時に私は、妊娠していたようでした。なので私はその学校の校長に、子どもを持ちながら学業を両立できると思うか、と尋ねました。
彼女は言いました。妊娠しているなら学生として受け入れない。なぜならこの学校は有名なアーティストを輩出するために設けられているものであって、子どもが病気になれば面倒を見なくてはならない女性たちは、アートに真剣にならないから、と。
ごめんなさい、私のリアクションを表現するために、汚い言葉を使わないとならないけど…
「あんたも、こんなアートとアートビジネスも… ク●喰らえ! アーティストがキャリアを手にするために、たいせつなもの=人間性を犠牲にしてまでお金を払うなんて!」
アートは空想であり、ビジョンであり、恐れであれなんであれ、真に人生のためであってこそおもしろいと思っています。アートがアートのためでしかなかったら、まったくつまらない、と思ったんです。
なのでそれ以来すべての私の作品はアートスクールからではなく、私の人生から発生しているのです。

 

禁煙に成功したら、あなたはモチーフを失うのでは?と観客の一人が言っていましたね。現在のエア・シガレットはどんな位置にあるのですか? 完結したのですか?

なぜだか、エア・シガレットはいつか東京へ行くのだと始めからわかっていました。だからこれで完結です。ですが、ヨーロッパに戻る空の上で、この小さな紙の作品の、完璧な姿形のビジョンが浮かびました。それはトーキョー・アイディアルを含むすべてのエディションの結末のようなものです。このアイデアは今も私の心から離れません。私自身も楽しみです。

あなたの滞在中に、日本では長野でオリンピックの聖火リレーがあり、その日偶然にも個展会場には6人の中国人のお客さまが来ていました。そして彼らを巻き込んで、あなたの別のプロジェクトである「オリンピック聖火ポスター」のアクションをしましたよね。
聖火ポスタープロジェクトについてくわしくはこちら >>
古本屋さんから貸していただいている古雑誌の束も、お願いするのがあと半日遅かったら、半分の2千冊が手に入らないところだったんです。
あなたのプロジェクトではよくそういう偶然が起きますね。私はそれが、あなたの生み出している引力であり、あなたのアートを生かしているたいせつな要素だと思っています。世界に対してそのような引力の中心となることがアーティストの役目だと思います。あなたの制作プロセスにおいて、そういった引力をどのように意識していますか?

引力を生み出しているのは私ではないと思います。むしろ私が、時と場所から成る自然の引力が集中したスポットを探しているのではないかしら。
強烈なエネルギーを感じるといつでも、それは興味深いだけでなく、私の作品のために使えるパワーがある、ということでもあるのです。ひとたびその引力の回路にログインすると、私は「これから起こるすべてのできごとは正しい」と完全に信じるようにします。それはすばらしい方法です。そして効き目があるのです!
端から競技を観戦しているのではなく、フィールドで競技をしているプレイヤーになっているような気分です。だから時々ボールをキャッチできるのです。

 

私たちは、自分のしていることの境界線に自らとらわれることが多いと思います。あなたはグラフィック・デザインの限界を感じたことはありますか? 明らかに、あなたはそれらを飛び越えていっていますが。

そうですね。通常私たちグラフィック・デザイナーが創り出すプロダクツは、小さな美術館のようなものだと感じます。それらは無口で、すべてが秩序を持ち、あなたが好きなときに好きなだけ見ることが(訪れることが)でき、そこにいてくれます。
私がそこに足りないと感じるのは、音楽が持っている力です。すばらしく、鮮やかに、魔法のように、音楽は私の脳を震わせ、私の体を揺らし、私の魂を同時に刺激します。音楽はそれ自身の宇宙を創造します。そして音楽は創造物です。私もデザイナーとして、鮮やかな何かを創り出すという衝動があります。だからいつでもグラフィック・デザインのルールと限界を打ち破っているのではないかしら。

 

プロジェクト以外で、東京で何を見つけましたか?

ギャラリーのそばにある美しいお寺で、朝の6時に始まるお坊さんたち(と私たち)のお祈り。
すばらしい手料理を毎日食べさせてもらった喜び。
東京で自転車に乗る喜び。その土地の人に連れられて街を走るのは、母親のあとをついて歩くカモの赤ちゃんになったみたいな、すばらしい気分でした。
4階建てのサッカーグッズの店。私の息子にとってはパラダイスでしょう。
そして新しい友だちにも出会いました。

 

進行中のプロジェクトは何ですか?

ホームページを完成させなくては。

 

また東京に来てくださいね!

もちろんそうしたいです!

愛を込めて。エリザベス

 

エリザベス・コップフ日本初個展『エア・シガレット|トーキョー・アイディアル』詳しくはこちら(ギャラリーアーカイブへ) >>

 

 

 

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