2006年、西嶋は針金による造形作品を発表した。記号化した自身の顔を針金でかたちにしたものをつなぎあわせ、空間構成を行った。かたちにしやすく、そして存在感の強すぎない素材。それが、針金だった。細い針金は、空間のなかに存在としてかたちを構成しながらも、質量で観る者を圧倒することはない。空間に溶け込んだ針金は、観る者の意識によって存在を現し、そして消す。彫刻の素材として針金を意識したとき、西嶋はコンクリートと訣別した。
 針金によって作品の存在感を消すことの感触を得た西嶋は、さらに自身の彫刻観を実践するためにある展覧会を行った。2007年の個展『しあわせのかたち』では、陶器製のオブジェ作品を会場であるカフェのテーブルに置き、作品に関心を持った人に声をかけ、自分にとって等価値なものと作品を交換することを提案する。値段の付けられていない作品に自分自身で価値を決めることに人々は戸惑い、そして考える。作品を提供する者とそれを欲する者が、価値の交換を通じたコミュニケーションで生み出す「関係性」を、西嶋は「見えないかたち」としての彫刻作品と位置づけたのである。

 

  2008 年7月に開催する展覧会『存在の気配』で、西嶋はこれまで自身が追求してきた「見えないかたち」の新たなる表現を提示する。
 素材として選んだのは銅の針金。15センチほどの銅線をコイル状に巻いて作品のパーツを作る。パーツづくりはすべてを自分で行うのではなく、家族や友人 をはじめ西嶋に関わる多くの人たちにも 参加してもらう。作品制作におけるすべてを自分で行うことを基本としてきた西嶋にとって、制作に他者が関わることには大きな意味があった。
「自分という存在を考えたとき、他者の存在なしにはあり得ない。僕自身の肉体も両親からもらったものであり、僕の精神も他者との関わりによって育まれた。今回の展覧会では、作品そのものに他者との関わりを具体的に持ち込むことで、関係性を彫刻することに一歩踏み込んでみたい」
 西嶋と、西嶋に関わる人々が巻いた銅線のパーツは、ふたたび、彼の手によって溶接され、立体作品となっていく。
  繊細な存在感を放つ素材と他者との関係性が織りなす作品によって構成する展覧会『存在の気配』。それは、西嶋雄志にとって自身の彫刻観の本質に迫るものになると言えるだろう。

 

interview & text | Takeshi Yamaguchi (Gallery ef)

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