「見えないかたちを表現したい」
彫刻家・西嶋雄志は、かたちをつくることを前提とする彫刻の概念と、一見矛盾するような価値を制作の目標に置いている。鉄、コンクリート、針金。自身の彫刻観の核心に近づくために、使用する素材を大胆にシフトしてきた彫刻家が辿り着いた彫刻とは? 7月4日から始まる展覧会「存在の気配」で西嶋雄志のとらえる彫刻が明らかになる。
彫刻家・西嶋雄志は、自身が表現すべきものを確信したとき、それまで慣れ親しんできた方法論をあっさりと捨て、まったく違う素材を用いた表現方法をゼロから構築してきた。
1989 年に東京藝術大学彫刻科に入学した西嶋が最初に選んだ素材は鉄だった。高校時代に、真っ赤 に熱せられた飴状の 鉄を見た西嶋は、「これで自由にかたちを作ってみたい」という欲求に駆られ、大学入学後、一貫して鉄による作品制作を続けてきた。
最初の転機は 大学 4 年生のときに訪れた。この時期、西嶋は経験を積んできた鉄での制作に疑問を持ち始めていた。溶ける様子に惹かれて 鉄という素材を選んだものの、実際の作品制作は手探りだった。感覚の導くままに制作した作品は、ときに自分でもその意味を消化できずにいた。分かりづらいものを観る側に作品として押し付けることに強い違和感を覚えた。
観る者が理解できるかたちを制作することを決めた西嶋は、鉄を離れ、新たなる素材としてコンクリートを選び、制作のテーマとして人体に取り組み始めた。粘土で原型を造り、型を取り、コンクリートを流し込む。素材の性質上、流し込みは何度かに分けなければならない。段階的に流し込んでいるうちに、層が重ねられ、作品の表面に独特の表情が生まれる。偶発的に手に入れたコンクリートの積層の表情は、人体作品を通じて人間の精神性を表現しようと想い始めた西嶋の意図とも一致した。
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