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2009年 8月7日(金)〜30日(日)
タイラー・スター
Wallowing Series
絵画/ミクストメディア

12:00-21:00(最終日は19:00まで)|火曜休|入場無料

オープニング・レセプション|8月6日(木)19:00-21:00


Wallowing: Goodbye Enterprise
pencil, gouache, ganpi
2009

【作品紹介記事Web Designing 8月号情報掲載】デザインの現場 8月号|メトロポリス
【レビュー】ex-chamer museum >>

 

暴徒と化した群衆と警官隊。墜落したアメリカ空軍のジェット機。佐世保に寄港した原子力空母と抗議団体のバリケード。
1974年生まれのアメリカ人アーティスト、タイラー・スターにとって60-70年代は、バックミラー越しの光景のように映ります。

彼が焦点を当てるのは政治的モチーフそのものではなく、「行動」が引き起こす鮮烈なドラマです。
「世の中を修正しようとするヒロイックな努力がむしろ事態をこんがらがらせる」という構造に、彼は人間の本質の重要な側面を見ています。世の中の歴然たる問題を修復(しようと)するため、つぎはぎに再利用される歴史的出来事。スターは、「現在」に浮かび上がるその痕跡を辿り、彼自身を取り巻く日常の光景に落とし込みます。過激派学生たちの中に入り交じっているのは、街角の交番と警官、パチンコホール、自転車に拡声器を積んで選挙活動をする立候補者、建設現場の作業員たち。彼の暮らす東京の下町の光景であり、彼の携帯カメラがとらえる日常の断片です。
当代の出来事を「過去」という背景や衣装に置き換え、「過去の骨組みの上に立つ現在」を映し出すというアプローチは、歌舞伎やシェイクスピアなどの演劇表現にも見られます。スターにとってそれは、世の中の複雑性を観察し、理解しようとする試みなのです。

デザイン学校でイラストレーションを専攻した後、自作のエッセイとイラストを編集した雑誌を出版した経験から、スターは「刷り物」という媒体に興味を強めます。その後大学へ進み版画の美術学士を修め、ポーランドの芸術学院でエッチングの技術を学びました。
2005年より東京芸術大学大学院で学び、日本の伝統的な木版画の研究に取り組んでいます。日本固有の繊細で上質な素材への敬意と、版画本来の持つ役割の基礎の上に、彼は絵画という手法を応用し、自らの世界観を描きます。

2009年8月、タイラー・スターは初の個展『Wallowing Series』において新作を含む絵画約15点と立体作品によるジオラマを発表します。
会場となるのは浅草に江戸時代から建つ土蔵を再生したアートスペース「ギャラリー・エフ」。震災、戦災、都市開発の波をくぐり抜け、歴史の静かな証人として在り続ける一方、美術表現の場として現代へ向けた様々なメッセージの背景となってきました。
タイトルの「Wallowing」 という言葉には、(快楽に)耽るという意味と、(泥沼のなかを)もがくという意味があります。スターの作品は、このような人間の二元的側面を考察し、過去と現在、日本とアメリカ、その双方の歴史と文化へ、ゆるやかに手を伸ばしています。


Wallowing: Goodbye Enterprise (detail)
pencil, gouache, ganpi
2009

Wallowing: Hello Enterprise (detail)
pencil, gouache, ganpi
2009


Wallowing: Moth in the Treasure House
(Cobalt 60, Kyushu University Building, F-4 Phantom)
mixed media, 2009

タイラー・スター|Tyler Starr

1974年、アメリカのコネチカット州生まれ。ロードアイランド・デザイン学校で2年間学んだ後に、オハイオ州コロンバスで救急救命士の資格を取得する。コネチカットで救急救命士として勤務するかたわら、自費出版による雑誌『Buck in the Field』を発行する。自作のイラストとエッセイを編集したその雑誌は、1996年にはニューヨーク市の New Museum of Modern Art による『Alt. Youth Media』において展示された。
コネチカット大学に進学し、東欧のアートに触れる。版画の美術学士を修めて卒業後、フルブライト奨学金を得てポーランドのクラクフにある美術アカデミーへ留学。ミネソタ大学で美術の修士号を取得したのち、アメリカのミネアポリスにある Highpoint Center for Printmaking のスタジオマネージャーとなり、パキスタンや日本、ポーランドなどの現代版画の展覧会を企画、監修する。現在は、東京の下町に住みながら制作活動を行っている。東京芸術大学大学院美術研究科博士後期課程に在学中。
URL http://www.tylerstarr.com

【主な展覧会】
 これまでに、アメリカ、トルコ、ポーランド、オランダ、日本において作品展示。2009年はベルギーのLiege近現代美術館で開催された第7回国際現代版画国際ビエンナーレ、第2回バンコク国際版画絵画トリエンナーレ(優秀賞を受賞)、オランダの『World Art Delft』において開催された『Poetry in the Meadow』に出品。

2008年
『第1回 国際版画イスタンブール・ビエンナーレ』(イスタンブール・グラフィックアート美術館、トルコ・イスタンブール)
『日本版画協会主催第76回版画展』入選(東京都美術館、東京・上野)

2007年
『国際版画ウィーン・ビエンナーレ』(Kunstlerhaus、オーストリア・ウィーン)
『東京の現代版画展』(Highpoint Center for Printmaking、ミネアポリス・アメリカ)

【奨学金】
2005年春〜現在|文部省研究留学生|東京藝術大学で木版画の技術を学ぶ。
1998年秋〜1999年春|フルブライト奨学金|ポーランドのクラクフにある Academy of Fine Arts でインタリオ版画の技術を学ぶ。