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9月14日(金)〜10月8日(月/祝)
ヤマシタリョウ
江戸金枠「鏡花」

 

 ヤマシタリョウは、デザインから金属の鋳鍛造・成形まで、制作工程のすべてをひとりで手がける、数少ない眼鏡作家のひとりです。彼は、老舗の眼鏡工房で技術を学んだ後に独立し、1998年自らのアトリエを東京・世田谷に構えました。眼鏡づくりに携わってきたヤマシタには、長年抱いてきた一つの思いがあります。
「眼鏡は顔の印象を決めるうえでとても大きな役割を果たします。ただ、種類は豊富とはいえ、私たちには既製品を買うしか選択肢がありません。もっと自由な発想で人間と眼鏡との関係を探ってみたかった」
 こう語るヤマシタリョウは、自身のアトリエでオートクチュールのシステムを確立し、採寸から完成まで3〜4カ月をかけ、ほとんどのパーツを手作業で制作しながら、自分だけの眼鏡を求める人々のリクエストに応えてきました。
 眼鏡を使う人と作る者が数ヶ月をかけて育む関係性は、現在の眼鏡が工業製品となり、失ってしまった一つの価値であるとヤマシタは捉えます。彼は、その価値を希少な文献からひも解き、江戸の金枠職人(眼鏡職人)たちのあり方から学びました。
「江戸の金枠職人たちは、南蛮から伝わった眼鏡を日本人に合うように洗練させていきました。職人たちの高い技もさることながら、作り手と使い手の間に確かな関係性があったことが現代との大きな違い。工業製品として眼鏡が失ってしまった価値を見直していきたい」
 一方で、ヤマシタは眼鏡をもっとも身近な「パーソナルアート」と位置づけ、美術的表現としての可能性も追求し始めました。遊び心に溢れるデザインを発展させるとともに、竹や鉄など現代の眼鏡が決して採用しない素材を取り入れるなど、既成概念にとらわれない眼鏡づくりに挑戦してきました。2005年からは年2回の個展活動を開始し、自身の作品をギャラリーというアートスペースで発表するだけでなく、生け花やオブジェ、竹といった素材とのインタレーションによって、眼鏡による空間構成も実現してきました。その作品と活動の姿勢は高く評価され、今年5月には、眼鏡発祥の地と言われるイタリアでの初個展も実現させました。
 9月14日から始まる『江戸金枠「鏡花」展』で、ヤマシタリョウは新たなる眼鏡づくりに取り組みます。「鏡花」は、中国の古代宮廷文化の思想に精通する文字研究家、王超鷹氏との出会いによって生まれたタイトル。自然の営みに敬意を払い、その造形に美を見出していた時代の人々が、眼鏡に出会ったならきっと「鏡花」という言葉を当てただろうという王超鷹氏の見解は、ヤマシタに改めて自らの眼鏡づくりへの確信をもたらしました。
「私の制作の基底にあるものは、植物や動物を問わず、共通の生命感を理解し形作られたものこそが、人々に一体感を持って受け入れられるという考えです。人とともにある道具は、もっともっと豊かであってほしい。『鏡花』という言葉の持つ豊かなイメージを大切にしながら、まだ見ぬ眼鏡の造形に挑戦していきたい」
 会場は江戸時代末期に建てられた土蔵を再生したアートスペース、ギャラリー・エフ。江戸の職人が匠の粋を集めて創った空間に、金枠職人の心意気を受け継ぎながら、眼鏡の可能性を拓くヤマシタリョウの新作眼鏡が展示されます。

情報掲載:METROPOLIS|和楽|歴史読本|東京メトロ沿線だより|沿線リビング|シティオペラ
作品紹介:ソトコト

 


photo: Taiki Morishita