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4月29日(日)〜5月20日(日)
ギャラリー・エフ10周年企画展
アルツハイマー・カフェ
〜 臨床美術が問いかけるもの〜

 


 

1997年4月、アーティストたちの手によって再生された築140年の土蔵。
アーティストたちの働きかけがなければ10年前に取り壊されていたこのスペースで、
今改めて「アートができること」をテーマに展覧会を開催します。

ギャラリー・エフは10周年を迎えました。

photo | Hideki Shiozawa

 

 日本は今、全人口の15%を65歳以上の高齢者が占める高齢社会に突入しました。この高齢社会が直面している課題の一つにアルツハイマー病があります。記憶障害や摂食障害など日常生活も困難になってしまうアルツハイマー病は、患者本人のみならず、家族にとっても大きな負担を課す深刻な病です。
  アートの力によってアルツハイマー病にアプローチする試みが約10年前から始まっています。彫刻家の金子健二氏が主宰する芸術造形研究所では、専門医やカウンセラーと協力しながら、アートの制作活動を通じて「感性の脳」とも呼ばれる右脳を活性化させ、アルツハイマー病の予防と症状の改善を図る取り組みを行ってきました。
  「臨床美術」と呼ばれる世界的にも新しい方法論は、専門研究機関での調査研究によってその効果が科学的に立証されるとともに、病院での治療や地方自治体の介護予防事業に導入されるなど、熱い注目を浴びています。
 臨床美術は、アートの持つ力を改めて提示してくれました。臨床美術の現場において、専門家である「臨床美術士」たちは、アルツハイマー病の人々が芸術的な感覚を開く環境を整え、制作に取り組むためのガイド役を務めます。その現場でもっとも大切とされるのは、コミュニケーションです。臨床美術士たちは、アルツハイマー病の人々をアートに取り組む個人とし、真剣にコミュニケーションを重ねながら、ともにアート作品を創りあげていきます。臨床美術は、アートが世代や立場、そして病を超えて人と人を結ぶコミュニケーションのツールとして大きな役割を果たすことを再認識させてくれたのです。
 臨床美術のもたらすもう一つの成果、それはアルツハイマー病の人々が制作する作品です。固定概念にとらわれない自由な感性によって制作された作品には、観る者の心を惹き付けるアートとしての強い力があります。逆説的ですが、アルツハイマー病の人々は、その病によって自意識から解放され、プロのアーティストたちでさえ及ばない鋭い感性を引き出しながら、ただ無心に、目的を持たずに美術作品を制作することができるのです。臨床美術は、アルツハイマー病の人々が潜在的に持つ芸術性に光を当てることで、すべての人が日々の生活を営んでいくうえでアートが必要なものであることを、改めて私たちに提示してくれたのです。
 ギャラリー・エフでは、10周年企画として、展覧会『アルツハイマー・カフェ』を開催します。この展覧会では、芸術造形研究所が実施してきた臨床美術で、アルツハイマー病の人々が制作した作品と臨床美術士たちの作品、約30点を展示します。展覧会『アルツハイマー・カフェ』は、アルツハイマー病の人々、臨床美術士、そしてギャラリーが連携しながら一つの展覧会を実現することで、アートの持つさらなる可能性を発信します。 

企画制作|ギャラリー・エフ
協力|芸術造形研究所


photo: Hideki Shiozawa


 

芸術造形研究所
1976年に浦和造形研究所として設立。若い彫刻家の共同アトリエとしてスタートし、子ども造形教室など美術教室の運営を通じて、美術教育に関する高度な技術を培ってきた。1996年より臨床美術についての事業を開始。専門医やカウンセラーと協力し合いながら独自のカリキュラムを構築、その取り組みと成果はマスメディアでも大きく取り上げられる。現在、関東を中心に病院や介護老人保健施設などで臨床美術を実施するとともに、この分野の専門家である臨床美術士の養成にも取り組んでいる。主宰は彫刻家の金子健二氏。

 

記事掲載:
読売新聞/朝日新聞/シルバー新報/日経サイエンス別冊「心のサイエンス」

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情報掲載:JAPAN TIMES